本日、株式会社ポケモンは、2026年8月からポケモンカードの一部抽選販売やイベントにマイナンバーカードを使った「デジタル認証アプリ」を導入予定と発表しました。
ポケモンカードといえば、抽選倍率の高さや高額転売、いわゆる転売ヤーの存在など、もはや一つの社会現象といってもよい人気コンテンツです。
その購入にデジタル認証が使われるという事実は、人気商品の価値だけでなく、本人確認や購入管理までが求められる現代を、さまざまな意味で象徴しているようにも感じます。
WorXUPとして一般的なビジネステーマとは少し距離があるように見えるかもしれません。
しかし、人気コンテンツの販売設計や転売対策、デジタル認証との結び付きは、これからのビジネスを考えるうえでも重要な視点です。
今回はポケモンカードを入り口として一緒に考えていければと思います。
ポケモンカード購入にデジタル認証アプリ導入
今回の発表は、2026年8月から一部商品のオンライン抽選販売や公式イベントなどでデジタル認証アプリ導入が予定されており、利用者に対してアプリのダウンロードと事前登録を呼びかけています。
すべてのポケモンカードを購入する際に必要になるわけではなく、まずは人気商品の抽選やイベントなど、本人確認が必要な場面で活用される仕組みのようです。
今回の本人認証では、スマートフォンでマイナンバーカードのICチップを読み取り、ポケモンカードゲームの「プレイヤーズクラブ」アカウントと本人情報をひも付けます。
これにより、一人の利用者が複数のアカウントを作って抽選へ応募したり、他人名義のアカウントを利用してイベントへ参加したりする行為を抑えやすくなります。
ポケモンカードは人気商品の抽選倍率が高く、複数アカウントによる応募や高額転売がたびたび問題となってきました。これまでにも電話番号認証や購入数制限などが行われてきましたが、アカウントの向こう側にいる人物が本当に同一人物ではないかまでは、十分に確認できませんでした。
そこで、公的な本人確認手段であるマイナンバーカードを使い、「実在する一人の利用者」とアカウントを結び付けようとしているのです。
なお、ここで注意したいのは、株式会社ポケモンが12桁のマイナンバーそのものを取得するわけではないという点です。
認証には、マイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書などが使われます。公式発表では、株式会社ポケモンが利用者のマイナンバーを取得・保管することはないと説明されています。
そもそもデジタル認証アプリとは?
デジタル認証アプリとは、
マイナンバーカードを使った本人確認や電子署名を、スマートフォン上で安全かつ簡単に行うためのアプリとなります。
運営・提供しているのは民間企業ではなく、国の行政機関であるデジタル庁です。
2024年に提供が始まり、行政サービスだけでなく民間企業が提供するECサイトや金融サービス、予約サービスなどでも利用できる共通の本人認証基盤として整備されています。
利用者は対象となるサービスの画面からデジタル認証アプリを起動し、スマートフォンにマイナンバーカードをかざします。
そのうえでカード交付時に設定した暗証番号を入力すると、本人であることをオンライン上で確認できます。
アプリ単体で何かを申請したり、商品を購入したりするものではありません。
行政機関や企業が運営するサービスと連携し、その途中で本人確認が必要になった際に使用する、いわば「デジタル上の身分証明書」のような役割を持っています。
デジタル庁が挙げている主な利用用途には、次のようなものがあります。
・ECサイトやインターネットバンキングへのログイン時の本人確認
・公共施設やシェアリングサービスのオンライン予約
・ライブ会場などで酒類を購入する際の年齢確認
・地域アプリや自治体サービスへの登録
・行政手続きや契約書類への電子署名
民間企業側は、デジタル庁が提供するAPIを自社のサービスへ組み込むことで、マイナンバーカードを使った本人確認機能を導入できます。
これまでマイナンバーカードといえば、行政手続きや証明書の取得、健康保険証など、公的サービスで使うイメージが強いものでした。
しかし今回のポケモンカードへの導入は、人気商品の購入やイベント参加といった身近なコンテンツにも、公的なデジタル認証が使われ始めた事例といえます。
転売対策のために「一人一回」を確認する仕組みとして導入されますが、その用途は商品購入に限りません。
年齢、居住地域、会員資格など、サービスを利用するための条件をオンライン上で確認する共通基盤として、今後さらに広がっていく可能性があります。
拡大するトレカ市場と転売市場
ポケモンカードへのデジタル認証導入を考えるうえで押さえておきたいのが改めて市場の大きさです。
国内のカードゲーム市場は、2021年頃の約590億円から急速に拡大し、2025年3月期には3,197億円に達しました。
さらに、2025年度の販売データではポケモンカードゲームだけで国内TCG市場全体の約半数のシェアを獲得しています。
販売数と販売金額は単純に一致しないものの、直近の市場規模に当てはめれば、ポケモンカードの新品市場だけでも1,600億円前後に達している可能性があります。
ここには、中古カードやフリマアプリなどで取引される二次流通市場は含まれていません。
子ども向けのカードゲームという枠を大きく超え、ポケモンカードは一つの巨大な経済圏を形成しているといえるでしょう。
転売目的の購入者、いわゆる転売ヤーが国内にどれほど存在するのかを示す正確な統計はありません。
不要になった商品を売る一般的なリユースと、最初から利益を得る目的で購入する転売を明確に区別することが難しいためです。
しかし、転売が行われる土台となる個人間取引市場は、すでに巨大な規模に成長しています。
経済産業省によると、フリマアプリやネットオークションなどを含む2024年の国内CtoC-EC市場は、2兆5,269億円に達しました。
また、フリマアプリの購入経験者を対象とした調査では、「転売品でも欲しければ購入する」と回答した人が21.3%、「購入を検討する」とした人が35.8%となっています。
合わせると、半数を超える57.1%が、転売品を購入する可能性があると回答したことになります。
実際、2025年に話題となったマクドナルドのハッピーセットとポケモンカードのコラボでは、取材を受けた転売者が友人を使って70~80セットを購入し、カードを元の販売価格の4~6倍で転売したと話しています。
これはあくまでひとつの事例ですが、一人の購入者が数十個単位の商品を確保できれば、店舗が購入数を制限していても、本来購入したい利用者へ商品が行き渡りにくくなります。
誰もが簡単に出品でき、買い手も見つけやすい巨大な二次流通市場があることで、転売がビジネスとして成立しやすくなっています。
このように、巨大な二次流通市場と高額転売が並存する状況を踏まえれば、ポケモンカードがデジタル認証アプリの導入に踏み切ったことは、ある意味で必然といえます。
従来の抽選販売や電話番号認証だけでは「一人一回」を十分に担保できず、より厳格に購入者本人を確認する仕組みが求められるようになっているのです。
ポケモンカードだけではない、デジタル認証アプリの活用事例
デジタル認証アプリはポケモンカードの抽選販売以外にも、すでにイベント、地域サービス、人材、公共施設など、さまざまな領域で活用が始まっています。
共通するのは、単に氏名や住所を確認するだけでなく、「そのサービスを利用できる本人であるか」「特定の権利や資格を持っているか」をオンライン上で確かめている点といえます。
モーニング娘。やHello! Projectのチケット抽選
2025年3月に開催された「モーニング娘。’25 小田さくらバースデーイベント ~さくらのしらべ14~」では、デジタル認証アプリによる本人確認を行った人を対象に、チケットの抽選販売が実施されました。
同月に幕張メッセで開催された「Hello! Project ひなフェス2025」でも、一般の抽選枠とは別に、マイナンバーカードで本人認証を済ませた人向けの抽選枠が用意されています。
目的はやはり複数アカウントによる大量申し込みや高額転売の防止です。
さらに会場では、事前に登録した顔情報と電子チケットを使った本人確認も行われ、チケット購入から入場までの本人確認をデジタル化する実証が進められました。
ポケモンカードと非常に近く、本人認証を行った人に限定した「抽選へ参加する権利」を設けた事例です。
ランサーズの本人確認
フリーランスと企業をつなぐプラットフォーム「ランサーズ」では、2025年から、デジタル認証アプリを活用した本人確認が導入されています。
利用者はマイナンバーカードをスマートフォンで読み取り、オンライン上で本人確認を行います。
クラウドソーシングサービスでは、発注者と受注者が直接会わないまま契約や仕事を進めることも多く、虚偽の登録やなりすましを防ぐ仕組みが重要になります。
公的な本人認証を取り入れることで、「実在する本人が登録している」という信頼性を、プロフィールや取引の土台として活用する事例です。
スキマバイトアプリ「シェアフル」
スキマバイトアプリ「シェアフル」でも、デジタル認証アプリを使った本人確認が導入されています。
働き手がマイナンバーカードで本人確認を行うことで、他人名義での登録や複数アカウントの作成などを防ぎやすくします。
スキマバイトでは、求人への応募から勤務、給与の受け取りまでをスマートフォン上で完結できる一方、事業者側は応募してきた人物が実在する本人であることを確認しなければなりません。
ポケモンカードでは「一人による複数応募」を防ぎますが、シェアフルでは「一人の働き手を一つのアカウントへ正しく結び付ける」ために利用されています。
公共施設予約システム「いつでも貸館」
株式会社パストラーレが提供する公共施設予約システム「いつでも貸館」では、利用者登録時の本人確認にデジタル認証アプリが活用されています。
体育館、会議室、公民館などの公共施設をオンラインで予約する際、利用者がマイナンバーカードで本人確認を行います。
これまでは、施設の窓口へ出向いて本人確認書類を提示し、利用者登録をしなければならないケースもありました。
デジタル認証を利用すれば、オンライン上で本人確認と登録を完了し、その後の予約へ進めます。施設を利用する権利を、本人と正しく結び付ける事例です。
大企業向け業務システム「SmartDB」
株式会社ドリーム・アーツが提供する大企業向け業務デジタル化クラウド「SmartDB」でも、デジタル認証アプリによる本人確認が導入されています。
SmartDBは、企業内の申請や承認、契約、各種業務手続きをデジタル化するサービスです。
重要な申請や承認を行う際に、マイナンバーカードで本人確認を行うことで、IDやパスワードだけでは判断しにくい「実際に本人が操作しているか」を確認できます。
一般消費者向けサービスだけでなく、企業内の承認や業務手続きにも公的な本人認証を組み込めることを示す事例です。
デジタル認証アプリは今後どこまで広がるのか
ポケモンカードやライブチケットの事例を見ると、デジタル認証アプリは不正転売を防ぐための特殊な仕組みにも見えます。
しかし、本来デジタル庁が想定している用途は、本人確認が必要な民間サービスや行政手続き全般です。
企業や自治体は、デジタル認証アプリと連携するAPIを自社サービスへ組み込むことで、マイナンバーカードを使った本人確認、ログイン認証、電子署名などを提供できます。
公的個人認証サービスを導入する民間事業者は、2026年5月31日時点で1,265社に達しています。
現在は銀行口座や証券口座の開設など、法律上厳格な本人確認が求められるサービスでの活用が目立ちますが、今後はより身近な商品購入やサービス利用にも広がっていく可能性があります。
限定商品や人気商品の抽選販売
まず考えられるのが、ポケモンカードと同じように、需要が供給を大きく上回る商品の販売です。
人気スニーカー、限定フィギュア、ゲーム機、アイドルグッズ、福袋、コラボ商品などでは、一人の利用者が複数のアカウントを作成し、抽選へ何度も応募することが問題になります。
メールアドレスや電話番号だけでは、アカウントの向こうの人物が同一人物かどうかを完全には判断できません。
そこで公的な本人認証を組み合わせれば、一人一回の応募や一人一点の購入制限をより厳格に管理できます。
将来的には、本人認証を済ませた利用者だけが抽選へ参加できる仕組みだけでなく、過去に購入していない人を優先する、落選が続いている人へ優先枠を与えるなど、購入権そのものを細かく設計する使い方も考えられます。
酒類や年齢制限コンテンツの年齢確認
デジタル庁は、ライブ会場で酒類を購入する際の年齢確認なども、デジタル認証アプリの利用例として挙げています。
今後は、酒類やたばこのオンライン販売、年齢制限のある動画やゲーム、マッチングサービス、ネットカフェなどにも広がる可能性があります。
従来は、生年月日の自己申告や本人確認書類の画像提出が中心でした。
公的な電子証明書を使えば、利用者が入力した情報ではなく、公的な情報に基づいて年齢条件を確認できます。
すべての個人情報を企業へ渡すのではなく、「一定の年齢以上である」という利用条件だけを確認できる仕組みが整えば、プライバシーを守りながら資格確認を行う活用方法も考えられます。
シェアリングサービスやレンタルサービス
カーシェア、自転車や電動キックボードのシェアリング、レンタルスペース、高額商品のレンタルなども、本人確認との相性がよい領域です。
利用者と直接会わず、スマートフォンだけで予約や利用開始まで完結するサービスでは、なりすましや架空アカウントへの対策が欠かせません。
公的な本人認証を利用することで、予約者と実際の利用者を結び付け、不正利用や未払い、盗難などのリスクを抑えやすくなります。
デジタル庁も公共施設やシェアリングサービスのオンライン予約を、想定される利用シーンとして紹介しています。
企業内の重要な申請や電子契約
一般消費者向けサービスだけでなく、企業内の業務でも活用が考えられます。
例えば、高額な支払いの承認、重要な契約の締結、機密情報へのアクセス、役員決裁、退職や入社に伴う手続きなどです。
現在はIDとパスワード、ワンタイムパスワードなどで本人を確認することが一般的ですが、重要度の高い手続きでは、「アカウントを知っている人」ではなく「実際の本人が操作していること」を確認する必要があります。
デジタル認証アプリは電子署名にも対応しているため、本人確認と契約意思の確認を一つの流れで行う活用方法も想定されます。
導入が広がることで生じうる課題
一方で、本人認証を厳格にすればするほど、サービスを利用するまでのハードルは高くなります。
マイナンバーカードを持っていない人、対応するスマートフォンを持っていない人、暗証番号を忘れた人、スマートフォン操作が苦手な人は、商品購入やサービス利用から取り残される可能性があります。
また子ども、高齢者、訪日外国人なども利用するサービスでは、デジタル認証を利用できない人のための代替手段が必要です。
利用者の心理的な抵抗も無視できません。
「商品を買うためにマイナンバーカードを使う」という行為に、不安や違和感を持つ人はいるでしょう。
そのため、導入を進めるうえでは、不正防止の効果だけでなく、誰もが利用しやすい代替手段と丁寧な説明をあわせて設計することが重要となります。
最後に
ポケモンカードへのデジタル認証アプリ導入は、転売対策という分かりやすい目的から始まっています。
しかし、その先にあるのは商品やサービスを誰に、どのような条件で提供するのかを、企業側がより細かく設計する時代です。
本人確認が便利になる一方で、認証できない人を取り残さない仕組みや、取得する情報の範囲、利用者への説明責任もこれまで以上に重要になります。
デジタル認証は不正を防ぐための技術であると同時に、企業と利用者の信頼関係をどう設計するかを問う仕組みでもあるのではないでしょうか。

