プロンプトエンジニアリング終焉論|潮流を的確に掴む

プロンプトエンジニアリング

「ChatGPTに上手な指示を出すコツ」「プロンプトエンジニアリング入門」──。

2023年から2024年にかけて、こうしたタイトルのセミナーや書籍が爆発的に増えました。

AIを使いこなすにはまず「うまいプロンプト」を書けるようになることが第一歩。

そう信じて学んできたビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

ところが海外では今こんな言葉が飛び交っています。

「プロンプトエンジニアリングは終わった(Prompt Engineering is Dead)」

もちろんこれは文字通り「プロンプトが不要になった」という意味ではありません。

背景にあるのはAIの性能向上やAIエージェントの普及によって単にうまい指示文を書くことよりも、AIに渡す情報、判断基準、業務フロー、文脈そのものをどう設計するかが重要になってきた、という変化となります。

では、日本でも同じことが起きているのでしょうか?

答えは「否」です。

日本はまだその議論が始まる前の段階にいます。

海外の一部では「プロンプトエンジニアリングの次」が語られ始めている一方で、日本国内の多くの企業ではまだ生成AIの基本活用やプロンプトの使い方を模索している段階にあります。

今回は海外で起きている変化と日本企業が実際にいる現在地を確認しながら、これからビジネスパーソンに求められるAI活用について考えていければと思います。

目次

プロンプトエンジニアリングとは何か

プロンプトエンジニアリングとは、簡単に言えば生成AIからより望ましい回答や出力を得るために指示文を設計する考え方です。

例えばChatGPTに「文章を書いて」とだけ依頼するのと、「30代のビジネスパーソン向けに、専門用語を避けながら、1,000字程度で、導入・本文・まとめの構成で書いてください」と依頼するのでは出力される内容は大きく変わります。

このようにAIに対して何をしてほしいのか、どのような前提で考えてほしいのか、どのような形式で出力してほしいのかを具体的に伝えることで、回答の精度や使いやすさを高めるのがプロンプトエンジニアリングです。

よく使われる方法としては次のようなものがあります。

方法内容
役割を与える「あなたは編集者です」「あなたは営業担当です」など、AIに立場を指定する
目的を伝える何のために使う文章なのか、誰に向けたものなのかを伝える
条件を指定する文字数、トーン、禁止事項、前提条件などを指定する
出力形式を決める表、箇条書き、メール文、記事構成など、形式を指定する
例を示す参考にしてほしい文体や構成例を伝える
修正を重ねる一度で完成させず、追加指示を出しながら調整する

つまりプロンプトエンジニアリングとは、AIに対する「お願いの仕方」を工夫する技術とも言えます。

ただしここで重要なのはプロンプトエンジニアリングは単なる“魔法の言葉探し”ではないということです。

「この一文を入れれば必ず良い回答が出る」といった裏技的なものではなく、AIに対して目的、前提、制約、期待する成果物をどれだけ明確に伝えられるかが本質です。

なぜプロンプトエンジニアリングが注目されたのか

プロンプトエンジニアリングが大きく注目された背景には、ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な普及があります。

2023年以降、多くのビジネスパーソンが生成AIを使い始めました。

文章作成、要約、翻訳、企画案の作成、メール文の作成、議事録の整理、Excel関数の相談、コードの生成など、さまざまな業務でAIを試す人が増えました。

その中で多くの人が感じたのが同じAIを使っていても聞き方によって回答の質が大きく変わるということです。

ざっくり質問するとざっくりした回答しか返ってこない。

逆に目的や条件を細かく伝えるとかなり実務に近い回答が返ってくる。

この差が見えたことで、「AIを使いこなすには、良いプロンプトを書けることが重要だ」という認識が広がりました。

また、生成AIの初期段階ではAI側も今ほど文脈をくみ取る力が安定していませんでした。

そのため人間側が丁寧に条件を整理し、出力形式を指定し、役割を与えることで、AIの回答品質を引き上げる必要がありました。

この時期にプロンプト集、テンプレート、プロンプト講座、プロンプトエンジニアリング入門といったコンテンツが一気に増えました。

つまり、プロンプトエンジニアリングは生成AIの初期普及期において、AIを実務で使うための入口として広がった考え方でした。

実際、今でもプロンプトの工夫には意味があります。

目的を明確にすること、条件を伝えること、出力形式を指定することは、AI活用における基本です。

その意味で、プロンプトエンジニアリングが完全に不要になったわけではありません。

ただし、生成AIの活用が次の段階に進むにつれて、「うまいプロンプトを書けること」だけでは足りない場面が増えてきました。

ここから海外で語られ始めている「プロンプトエンジニアリング終焉論」につながっていきます。

海外では何が起きているのか

海外では近年プロンプトエンジニアリングに対する見方が少しずつ変わり始めています。

かつてはAI活用において「どのようなプロンプトを書くか」が大きな関心事でした。

しかし、AIの性能が向上し、AIエージェントや業務自動化、社内データ連携、外部ツールとの接続が進む中で単発の指示文だけではAIを十分に活用できない場面が増えています。

例えばAIに営業メールを書かせるだけであれば、プロンプトの工夫である程度対応できます。

しかし、AIに営業活動の一部を任せるとなると話は変わります。

どの顧客情報を参照するのか。

過去の商談履歴をどこまで読み込ませるのか。

自社の営業方針や禁止表現をどう反映するのか。

どのタイミングで人間の確認を挟むのか。

AIが判断してよい範囲と人間が最終判断すべき範囲をどう分けるのか。

こうした設計が必要になります。

つまり課題は「AIにどう指示するか」だけではなく、AIが判断するための情報環境や業務フローそのものをどう整えるかに移っていきます。

この流れの中で注目されているのがコンテキストエンジニアリングなのです。

コンテキストエンジニアリングとは、AIに渡す文脈や情報環境を設計する考え方です。

プロンプトが「AIへの指示文」だとすれば、コンテキストは「AIが判断するための前提情報」です。

海外で起きているのはプロンプトエンジニアリングの完全な否定ではありません。

むしろプロンプトという単発の指示文から、AIが動くための文脈、情報、ルール、判断基準を含めた全体設計へ関心が移っているということです。

この変化を象徴する言葉として、「プロンプトエンジニアリングは終わった」という表現が使われていると考えると分かりやすいでしょう。

文字通りプロンプトが不要になるという意味ではありません。

プロンプトは今後も必要です。

しかしそれだけをAI活用の中心スキルとして捉える時代は終わりつつあるという意味合いに近いと考えられます。

日本企業はまだ同じフェーズにいない

では、日本国内でも同じことが起きているのでしょうか。

ここはかなり慎重に見る必要があります。

海外のAI先進企業やエンジニア界隈では、すでに「プロンプトの次」としてコンテキストエンジニアリングやAIエージェント設計の議論が進んでいます。

一方で日本国内の多くの企業ではまだそこまで進んでいないのが実態です。

もちろん日本でも生成AIの導入は広がっています。

社内でChatGPTやCopilotを使えるようにしたり、議事録作成や文章作成、社内問い合わせ対応などにAIを活用したりする企業は増えています。

しかし多くの現場ではまだ次のような段階にいるのではないでしょうか。

「どの業務にAIを使えばよいのか分からない」

「社員によって使い方に差がある」

「便利だとは思うが、業務フローに組み込めていない」

「情報漏えいや著作権、社内ルールが気になって積極的に使えない」

「AIを使っているが、成果につながっているか分からない」

つまり、日本企業の多くはプロンプトエンジニアリングが終わる以前に、まだ生成AIの基本活用やプロンプトの使い方を模索している段階にあります。

この点を見落として海外の「プロンプトエンジニアリング終焉論」をそのまま日本企業に当てはめると少しズレた議論になります。

むしろ、多くの現場ではこれから身につけるべき基本スキルです。

つまり日本の現在地としては「プロンプト活用を入口にしながら、その先にある文脈設計や業務設計へ進む必要がある」フェーズと捉えたほうが自然といえます。

コンテキストエンジニアリングをどう理解するか

コンテキストエンジニアリングという言葉はまだ一般的にはあまり聞き慣れないかもしれません。

しかし考え方自体はそれほど難しいものではありません。

コンテキストエンジニアリングとは、AIに正しく判断してもらうために必要な前提情報や文脈を設計することです。

プロンプトが「何をしてほしいか」を伝えるものだとすれば、コンテキストは「何を前提に考えてほしいか」を整えるものです。

例えば社内問い合わせ対応にAIを使う場合を考えてみます。

単に「社員からの質問に答えてください」と指示するだけでは不十分です。

就業規則、社内マニュアル、申請フロー、過去の問い合わせ、回答してよい範囲、回答してはいけない内容、最終的に人事部へつなぐ条件などが整理されていなければAIは正しく対応できません。

このようにAIに使わせる情報や判断基準を整理し、業務上使える形に整えることがコンテキストエンジニアリングの考え方です。

企業活用で考えると、主に次のような要素が含まれます。

項目内容
業務目的何のためにAIを使うのか
参照情報社内資料、FAQ、顧客情報、過去事例など
判断基準何を正しい回答・望ましい成果とするのか
制約条件法令、社内ルール、ブランドトーン、禁止事項など
出力形式メール、レポート、表、要約、提案書など
責任範囲AIに任せる部分と、人間が確認する部分
更新方法古い情報をどう更新し、最新状態を保つか

ここで分かるのはコンテキストエンジニアリングは単なるAIのテクニックではないということです。

むしろ業務整理、情報整理、ルール整備、責任範囲の明確化に近い考え方です。

そのためこれはエンジニアだけの話ではありません。

営業、マーケティング、人事、経理、カスタマーサポート、経営企画など、あらゆる部門に関わる話です。

AIに任せる業務が増えるほど、「どのような文脈をAIに渡すのか」が重要になります。

逆に言えば、社内の情報が整理されていなかったり、判断基準が曖昧だったり、業務フローが属人的だったりすると、AIを導入しても十分な成果は出にくくなります。

AIの性能が上がるほど、人間側に求められるのは、きれいなプロンプトを書く力だけではなく、自社の業務や情報をAIが扱える形に整える力になっていくのです。

ビジネスパーソンはこれからどうしていくべきか

では、ビジネスパーソンはこれからAIとどう向き合えばよいのでしょうか。

まず前提として引き続きプロンプトを学ぶ、ということには意味はあると考えます。

目的を明確にする。

条件を伝える。

出力形式を指定する。

追加指示で修正する。

こうした基本はこれからもAI活用の土台になります。

ただし、プロンプトのテンプレートを覚えることだけに意識が向きすぎるとAI活用は浅いところで止まってしまいます。

これから重要になるのは、自分の業務をAIに渡せる形に整理することです。

例えば次のような視点です。

「この業務の目的は何か」

「AIに任せられる部分はどこか」

「人間が判断すべき部分はどこか」

「AIに渡すべき情報は何か」

「どの資料を参照させるべきか」

「どのような出力なら業務で使えるのか」

「誤った回答が出た場合、どこで止めるのか」

このような問いを整理できる人ほど、AIを実務に組み込みやすくなります。

逆に、業務の目的や判断基準が曖昧なままAIを使っても出てきた回答が正しいのか、使えるのか、どこを直すべきなのか判断できません。

AI活用の差は、単に「AIに詳しいかどうか」だけで生まれるものではありません。

自分の業務をどれだけ理解しているか。

必要な情報をどれだけ整理できているか。

判断基準をどれだけ言語化できるか。

人間とAIの役割分担をどれだけ設計できるか。

ここに差が出てきます。

では何から始めるべきか、まずは取り組むべきポイントの事例として大きく5つ挙げてみます。

課題となっている業務フローやプロジェクトなどの、

・業務を棚卸しする
まずは、自分やチームの業務の中で、どこに時間がかかっているのかを洗い出すことが出発点です。

ワークフローを可視化する
業務がどのような流れで進み、誰がどのタイミングで判断しているのかを改めて整理します。

・AIに渡す情報を整理する
AIに正しく動いてもらうために、参照させたい資料やルール、過去事例を使える状態に整えます。

成果指標を明確にする
AIを使うことで、時間短縮、品質向上、対応件数の増加など、何を改善したいのかを整理します。

人間とAIの役割分担を決める
たたき台作成や情報整理はAIに任せ、最終判断や責任を伴う対応は人間が担う、といった切り分けを行います。

まずはこのような整理からでも少しづつ解像度が高まり、具体性が見えはじめてくると思います。

最後に

今回プロンプトエンジニアリング終焉論について取り上げましたが、「プロンプトが不要になる」という話ではありません。

むしろ、AI活用が広がるほどプロンプトは単体のテクニックではなく、業務や情報をどう設計するかという大きな文脈の中で捉える必要があります。

また、日本企業にとってはまだプロンプト活用そのものを学ぶ段階にあるといえるでしょう。

その先には必ず文脈設計、情報設計、業務設計の領域が待っています。

これからのビジネスパーソンに求められるのはAIにうまく命令する力だけではありません。

自分たちの業務を整理し、AIが扱える形に変換し、人間とAIが協働できる環境をつくる力です。

その意味でプロンプトエンジニアリングは終わるのではなく、より大きなAI活用設計の一部に組み込まれていくのではないでしょうか。

目次